ヘアスタイリストとして、コレクションブランドのバックステージやTV、雑誌のヘアスタイリストとして活動し、現在世田谷区の住宅街に完全会員制の「靴を脱いであがる民家型美容室」を運営している353 Inc.代表を務めるほんだ ぶん氏。ニューノーマルな時代に相応しい新たな形の美容室を2021年3月7日(日)から表参道にオープンさせる同氏にお話しを伺った。
ヘアスタイリストを目指そうと思ったタイミングやきっかけについて教えてください。
正直に話すと覚えてないほどの昔から決めていました。親の話だと、中学の進路相談の時には、「美容師になるか、美大もしくは芸大に行く」と言っていたそうで、僕は全然記憶にないんですよね。(笑)当時の90年代はMEN'S NON-NO、SMARTととにかく雑誌の影響力が大きくて。東京の美容師さんのスナップを見たりする中で、単純に「モテそう、カッコいい」っていうミーハー部分が強かったと思います。渋谷のレコード屋さんや東京に憧れていた部分もあったので、東京で楽しく暮らす為の手段が美容師さんになって、ファッションの世界に携わることだと思っていたんじゃないかと。
中学生の頃からちゃんと将来を見据えていらっしゃったんですね。
あとは、高校生の時の担当美容師さんが女性だったんですけど、その人にめちゃくちゃ恋をしてました。(笑)好きな人と同じ目線に立ってみたいっていう想いもあったので、結構色々な理由があるかもですね。(笑)
担当の美容師さんに恋をするってありがちですね。(笑)最初はどちらのお店に勤められていたんですか?
最初は自由ヶ丘の大きいお店で働いていました。ただ23歳くらいの頃に特に大義はなかったんですけど、唐突にロンドンに留学してみたいなと思って。ロンドンのカルチャーってカッコ良いし。ただワーキングホリデーも人数制限が厳しかったり年齢制限があったりで結果行けなかったんですけど。
その当時出会って仲良くしていたフランス人の友達に「どうしてそんなに海外に行きたいの?日本人は日本のこと知らないくせに海外行きたがるよね。」って説教されたんですよね。(笑)確かにそうだなって思って、まず日本について知ろうと思い、旅に出ることにしました。
全国津々浦々ですか?
そうです。北海道から沖縄まで全国旅して回ってみようって、自転車とバックパックで。(笑)とにかく貧乏だったので、出会う人の髪を切らせてもらったり、ブローをさせてもらったりと。その代わりにご飯を食べさせてもらったり、泊めさせてもらったり。バックパッカーの人情味溢れる旅の経験から、東京でちゃんと働いて、自分の店を持つならば、良い意味で“ちょっと田舎臭いコミュニティ”みたいなものを作りたいなと思いました。東京ってオシャレな美容室が沢山あるじゃないですか。特に自由ヶ丘近辺なんて尚更。そうゆうのはオシャレな美容師さんに任せて、僕は古い一軒家を改装した靴を脱いであがる、おばあちゃんの家のような、田舎っぽいトラディショナルなスタイルで商売していきたいなって思い、"靴を脱いであがる民家型美容室"というコンセプトのもと、自分の店【本多美容室】を持つに至りました。
"靴を脱いであがる民家型美容室"ってなんだか懐かしくて趣があるような響きです。
解りやすく言うと実家に帰ってきたような、地元の友達の家に遊びに来た感覚になれる美容室だと思います。外観は、庭にウッドデッキがあって、そこには古い梅の木や紅葉があり、古民家をリノベしているので全体的にちょっと和のテイストで、"おばあちゃんの家"のような雰囲気があるんですが、店内にはターンテーブルやレコードを置いているので、どこか友達の家のような感覚もあり、みんなが肩の力を抜いて寛げる空間だと思います。
改めてヘアスタイリストの経歴を遡ると今年で何年目ですか?
新卒で21歳の時なので、今年で18年目ですね。年数的には俗にいうベテランになるのかもしれないですけど、僕の経歴は、普通の美容師さんと比較するとイレギュラーだと思っていますし、自分のことは業界の窓際族だと思っているので、ある意味キャリアってキャリアは無いかなと。(笑)
"業界の窓際族"ってフレーズがまた斬新ですね。
当時は、美容師として名を上げる手段って、表参道・原宿界隈の美容室に勤めて、結果を出してメディアに出るっていうのが、やっぱり一番の近道だったと思います。そういう意味で、みんな有名店で歯を食いしばって下積み時代を過ごすっていうのが一つ定説としてあったと思うんですけど、僕の場合は一つの会社に3年以上在籍していないんですよね。転々としていました。「なんかもういいかな。次の場所で新しいもの見てみたい」って感じで、目まぐるしく場所を変えていたので、イレギュラーというかセオリーに反していると思うんです。実際、お前なんか成功しない!って罵られていましたし。ただ、良いも悪いも含めて人の3倍ぐらい沢山の美容師さんの仕事や価値観を近くで見ることができた事は良かったと思うんです。自力がつきました。物事はトライ&エラーでゼロから作るのが当たり前って感覚を得たのも今に繋がっています。技術のバリエーションも増えたし。僕はお店のブランド力を使ってメディアと繋がるようなこともなく、個人的な繋がりの中で「お前やってみなよ」みたいな感じでお仕事を頂けていたので、恵まれていたなーと。(笑)お金無いくせに借金してまで毎晩何処かしらで呑んでましたね。(笑)ダメ人間です。でもそこで沢山の異業種の方々とも出会えて今に繋がっていたりもします。
沢山の方々と出会って色々な人の価値観に触れてみるのってとても素敵なことですよね。ヘアスタイリストとしてやりがいを感じる瞬間はありますか?
自分の店をオープンした後、有難いことにご縁もあって、雑誌・テレビ・コレクションのヘアスタイリストとして活動させてもらっていた時期もありました。それは本当に変え難い経験でした。言葉にするのが難しいんですが、サロンの美容師さんって市場の最前線にいるんですよ。エンドユーザーと直接話せて悩みを聞ける、その悩みを解決するアイデアを常に考えて仮説と検証を繰り返す、それが楽しくて。うちの美容室は会員制なので、結構お客様とディープなお話ばかりです。それこそ美容室のここが嫌だ、美容室に行くと必ずシャンプーを売りつけられる、自分じゃセットが上手に出来ない、といったネガティブな意見も当たり前に聞ける環境だったからこそ、「自分で上手にセットが出来ること」、「人目を気にしない環境」や良質なヘアケア商材を「ユーザーがきちんと試せて納得して購入できる環境」があったらいいのになって思いが生まれてきました。生の声を聞ける最前線の場所に立っている中で、華やかな世界での活動とは違った可能性に気付きました。自分は美容師さんの新しい価値観を作れないかなと思っていく中で、2店舗目の【Standy by 353】の源流が生まれてきたんですよね。
今年の3月7日(日)に表参道にオープンする新店【Standy by 353】は一風変わった美容室なんですよね?
1店舗目の【本多美容室】は、広告無し、口コミ・紹介のみ完全会員制といったクローズドの美容室なんですが、今回は「拡散型」のものをやってみたいと考えていました。それが2店舗目の"サブスク型の無人美容室"【Standy by 353】なんですが、きっかけは建築デザイン系の友人と飲みの席で盛り上がった「トイレ」の話からでしたね(笑)
トイレの話から着想?・・・先が全く読めないんですが。(笑)
例えば、勤め先のトイレを想像してみてほしいんですけど、トイレに入ると少しほっとしませんか?トイレに入って便座に座って鍵を閉めれば、そこはもう自分だけの空間になるので、ある意味トイレは究極の癒し空間なのかもしれないという話から、「究極のパーソナルスペースってなんだろうね」っていう話に飛躍して。話しているうちに、僕がさっき言ったような人目を気にしないで、興味があるものを好きなだけ楽しめる、これとパーソナルスペースを掛け合わせたら面白くない?っていうアイデアが生まれて。これをさらに昇華させていけば時代にマッチするよね、じゃあリモート管理するサブスク型の無人美容室をはじめようってなったんです。
【Standy by 353】に置かれているブランドはどうやって選定されているんですか?
開業前に僕のインスタグラムのアカウントでアンケートを取らせてもらって、みんなの興味がある物、使ってみたい物のトップに上がってきた物と、僕が個人的にオススメだよっていうのをバランスよくセレクトしています。美容師目線からのリコメンド商品と、ユーザーやファンの方からのリクエスト商品を並べていて、内容はユーザーの方々と一緒に考えて定期的に入れ替えていこうと思っています。
商品動画説明QRコードや商品購入QRコードが一緒に掲示されているのも、わかりやすくていいですね。
なるべく自己完結できる環境をと思い用意しました。髪のお悩みや、気になった商品をもう少し詳しく知りたい時、使い方や目安の量などのアドバイスもポップで掲示しています。美容師さんに聞きたくても聞けない事ってあるじゃないですか。そういうのを解決できるような場所でありたいなと思っています。後は「スタイリングの教科書」ってオリジナルのHow to動画も配信しているので、自分じゃ上手にセットできないお悩みにもきちんと対応できたらと考えています。
これだけの美容機器や商品を実際に手軽に使えるのは、それこそ一般のエンドユーザーもそうですけど、美容系YOUTUBERやTikTokerなどのライブ配信系のインフルエンサーにも刺さりそうですね。
そこは意識していますね。スマホ専用機材やスクリーンも常設していますし。鏡台にもいわゆる女優ライトを装備しているので、この空間で撮影やライブ配信は出来ると思います。ちょっと環境を変えて投稿したいけど、スタジオに行くのはちょっとなぁっていう人達が、ここにきたら自宅よりもクオリティが高い投稿上げられるっていうような場所を目指しています。今もインスタグラマーの方と一緒に作戦を練っていますよ。(笑)
"サブスク型の無人美容室"のシステムはどういう仕組みなんですか?
月額1,200円で商材も機器も全て使い放題です。完全予約制で1ブースごとのご利用になるので、それこそSNSに積極的な方には常にネタがあって、最新の体験や気軽にお直しも出来て投稿も出来て、まさに今の時代のニーズにピッタリだと思っています。専用アプリで予約から決済、動画の視聴までできるシステムです。
美容業界においてもある意味ユニークなキャリアを積まれているほんださんですが、現在"靴を脱いであがる民家型美容室"と"サブスク型の無人美容室"ある意味真逆に位置していながら、どちらもストロングコンセプトがある美容室を2店舗経営されていて、ほんださんみたいになりたいと思う美容学生も出てきそうですね。
美容師さんって給料も低かったり、時間の拘束も長かったりでワーキングプアという形が多く、社会的にも美容師さんの立場ってまだまだ低く感じます。色々な環境で動いてきた僕は「美容師だから」って理由で悔しい思いを沢山してきて、それが今色々なバイタリティに繋がっているとは思います。
美容師業界ってそれこそ先人が色々な価値を作ってくださったので、その先人を慕っている後輩達がそこに関しては担っていけばいいと思うと同時に、そろそろ新しいものや価値が乱立していってもいいかなと思っています。そういうムーブメントを僕みたいなノーブランドの美容師が起こす方が面白いと思っていて。誰もが知っている有名店の美容師さんが新しい事を立ち上げても「やっぱりすごいよねー」で終わると思うんですけど、僕のような誰も知らないのに、急に出てきたなって人が爆発力を持って色々と新しいチャレンジをしていくからこそ面白いですよね。たとえ僕らのプロジェクトが大ゴケしたとしても、「自分達にも出来るかな」っていう次のチャレンジをするノーブランドマン達に繋がると思うし。そういう意味では、退屈で保守的な美容師業界の空気が変わればいいなって思っています。
インタビューをしながら、かつてロンドンのカウンターカルチャーに憧れた本多さんが、自身のことを"美容師業界の窓際族"と呼び、新たなムーブメントをスタートさせるストーリーに興奮を覚えながら最後の質問を投げかけました。
ズバリ、ほんださんにとって35歳とは?
今38歳なんですけど、34歳の時子供が生まれたのをきっかけに、メディアのお仕事を一旦お休みして、美容室の運営と家族の時間作りに振り切りました。そこからもうひとつ何か新しいことをやりたいなって思いはじめたのが35歳だったので。2店舗目の構想を立ち上げ動き出したのもちょうど3年前だった気がします。人生を10年ずつ区切ったときに、20代があり、30代があり、40代がある中で、もし35歳で動かなかったら多分30代は何もできなかったと思うんですよ。35歳はちょうど中間地点。40代を自分が良い感じの熟成具合で迎えるためには、35歳までに準備をするなり何かしら行動を起こしていないといけないと思います。30代ってまだまだ信用も実力も無いですし、そういう弱い部分は行動力で補っていくしかないと思うんですよね。何かを形にする為には経験値も低いからまだまだ沢山の時間が必要なので、構想を固めてスタートを切るなどの目安にするには、35歳ってちょうどいい年齢だと思います。
PROFILE
ほんだ ぶん
Hair Stylist
紆余曲折な20代下積み時代を経て、世田谷区の住宅街に広告無し、口コミ紹介のみ会員制の「靴を脱いであがる民家型美容室」を運営。ルイ・ヴィトンコレクションバックステージやTV、雑誌撮影のヘアスタイリストとしてメディアワークで活動した経験を活かし、「セルフスタイリング」を一般女性にレクチャーするアカデミーを開設。2020年にはベルギー、ドイツ、オランダにてセルフスタイリングのワークショップを開催する。2021年には、日本初、完全無人リモート管理のセルフヘアサロンをオープンし、今後も展開する予定。
【本多美容室】
自由ヶ丘エリアの少し入った住宅街の中
【Standy by 353】
住所:渋谷区神宮前3-16-17 2F
営業時間:8:00 〜 21:00(for all day)
Official Site:https://site-1895051-913-147.mystrikingly.com/
【353 inc.】
1年の内、毎月美容室に行ったとしても年間353日は自分自身でスタイリングをしなければならない。365日綺麗でいられる為に「美容室以外」の353日にフォーカスしたプロジェクトを運営する会社。
Instagram:https://www.instagram.com/353info/
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