メンズファッション誌を中心に、フォーマルからカジュアルまで幅広いスタイリングで活躍する、メンズスタイリスト井上裕介氏。 スタイリストだからこそ知る服の魅力や奥深さ、スタイリストという仕事についてインタビューしました。
ファッションに触れたきっかけを教えてください。
きっかけは中学1年生。俺らの中1時代って、今とは全然違うんだけど、大御所のスタイリストさん達が、誌面で自分の名前でスタイリングを出していて。スタイリストさんありきでページが出来上がってた時代だから、本当に面白くてその頃からファッション雑誌を月2-3誌ペースで買ってた。
中学1年生でファッション雑誌を月2-3誌ってはやい印象ですが。
そうかもね。周りがジャンプ買って読んでる中で、俺はそれこそ「FINEBOYS」とか「MEN’S NON-NO」とか今でもある雑誌をずっと読んでいたから。あとは、3つ上の兄貴も居たから、兄貴も雑誌買うし服も気にしだすタイミングだったから自然とって感じかな。
最初のファッションのテイストって何系だったんですか?
出身が横須賀だから、当時スケーターのスタイルが流行っていたっていうのもあって。俺自身、中学の時はみんなでスケボーもやってたし、ああいうオールドのスケーターのスタイル。太パン履いて、ガチャベルトして、ポロシャツ着たりとかTシャツ着たりとか。ちょうどスケボーとかBMXが流行ったストリートカルチャーのど真ん中世代だったよ。
当時、憧れの人はいましたか?
中学時代というより、高校に入ってから、憧れの人っていうよりは、いわゆる「ファッション業界」ってところに漠然と憧れを持つようになったかな。名前は出せないけど大御所のスタイリストさん達が活躍されていた時代で、ストリートが流行った時期も、キムタクとか浜ちゃんがレッドウィング履いて、ヴィンテージデニム履いてっていうアメカジの流れも一通りみてきたから。
そうだったんですね。どのタイミングでスタイリストになろうと思ったんですか?
高校1年生くらいかな。高校に入っても色々な雑誌を読み漁って、スタイリストって職業が誌面でたってることにも気づいてたし、こういう仕事いいなって思ってた。当時、「Dragon Ash」のスタイリングを担当されていたスタイリストさんがすごくかっこよくて雑誌でずっと追ってて。その方が文化服装学院卒だってことを知って、「あ、こういう道のりでスタイリストになれるんだ」っていうことがわかって、じゃあ俺も文化に入ろうって決めたんだ。
卒業してからすぐスタイリストに?
卒業してからというか、在学1年目から知り合いのスタイリストさんのところで単発的にアシスタントをやっていて。学校からふられるやつじゃなくて、知り合いのつてで行かせてもらっていて。今の師匠、栃木雅広さんにも学生時代から会っていて、単発的に呼んでくれるようになって、それこそ「Gainer」、「MEN’S CLUB」、「Begin」とかの仕事を手伝うようになって。
スタイリングする上で大切にしていることは?
自分の仕事の仕方の話になるんだけど、媒体によって打ち出したいものが絶対的に違うわけじゃん。かつその中でも各編集が打ち出したいものも違って。方向性は一緒だけど、この人はこういう感じっていう個々の好みが若干出てくるというか。
だから基本的に俺はこういうのをやりたいっていうのはもちろんあるけど、俺のやり方としては、仕事をするスタッフ、編集・カメラマン・ヘアメイク・モデルの全員と、ちゃんと一から揉んでいってページを作っていく。みんなの意見を聞きながら、話を揉みながら、一緒にいいものを作りましょうよっていうスタンスだね。これは独立してからもそうだし、絶対的に大切にしているよ。
関わる人が増えるほど、全体意識の統一はとても大切だと思います。
そうだね。一人の意識でちゃんといいものをつくれるかっていったらそうじゃないから、テイストや方向性は特にみんなで揉んで、考えて決めていくっていうのが大事だと思うし、だからこそいいものが作れると思ってるから、そこに関しての妥協は絶対したくない。悔いなく一丸となっていいものを作るっていう意識でやりたいなって思う。だから俺らは、意思統一の出来るチームで仕事をしてるんだ。
チームで仕事する方がスムーズにいきそうですね。
その方がクライアントも安心だと思うし、俺らも意識を統一していいものを打ち出せるのが強みだから、そういうやり方でやってかないとね。特にこれからは、仕事をする上で、圧倒的な感性がある大御所の人達を除いて、一人完結型はもう通用しないと思う。ちゃんとブランド側の意思を取り入れて、発信できるっていうのが必要だから。
今までで特に印象に残ってる仕事はありますか?
いっぱいあるよ。この仕事をやっている上で基本的に楽しくやれてるから。もちろん体数やべーとか、一日モデルで100カット以上とかの地獄スケジュールで、死にそうになることも多々あるけど、結局最終的には終わるし、みんなで楽しくできたなってなるから。むしろこの十何年間独立してからずっと楽しくやれてきたなっていうのが印象的。
じゃあ一回も・・・
辞めようとおもったことなんて全然ないよ。やりたいからこそこの仕事についてるし、大変だなって仕事はあったけど辞めたいなって思ったことはないかな。俺は周りの人にも恵まれていて。編集もそうだし、カメラマン・ヘアメイク・モデルもしかり、みんなちゃんと見ていてくれたから。それこそ「Gainer」は、まだ俺が栃木さんのアシスタントについていた時から、見ててくれて、独立した瞬間にすぐ仕事をくれたんだ。ちゃんとアシスタント時代の自分の仕事を見てくれていて、ページのオファーをくれたのがなにより凄い嬉しかった。
粋ですね。
俺がアシスタントの頃って、ちょっと上の世代の編集の人が多いから、そういう人たちは義理堅いというかちゃんと見ていてくれたし、「Gainer」の編集長はアシスタントの俺らにも毎回気さくに話しかけてくれて、コミュニケーションとってくれるし、独立したらすぐ仕事もくれるし、もう頭があがらないよね。そういう人達が周りにいたっていうのが、ありがたいし、本当に恵まれていたなって思う。
改めて、雑誌のお仕事の魅力は?
改めて言われるとなんだろうね。(笑)俺って感覚で仕事をしてる人じゃないから、基本的に展示会もいけるところは何十件もまわるし、ちゃんと情報を得た上で自分のスタイリングに落とし込んでくタイプ。傾向やトレンドをバーっと情報とって、毎回ファイリングして、そのシーズン自分の携帯に収めた何百枚、何千枚くらいの写真と情報をアタマの中にいれて、構築的コーディネートを提案していくから。こういう仕事の仕方は、雑誌の人達と相性が良くて、やっていくと楽しい。あと、このやり方が自分の強みだとも思うから、もっと仕事の細かさや丁寧さってところを大事にして、周りの人達と仕事をしていくスタイルを突き詰めていきたい。
アパレルのオンライン展示会やEコマースについてどう思いますか?
オンライン展示会は、立体ではないから、平面上で服や靴を見せられても、いいものなんだろうけど、その良さが何も伝わってこないから、古いのかもしれないけど、服とかモノに関しては自分の目で見て、触って感じることが一番大事だと思う。だから、俺は服をオンライン上で買ったことがない。ポチって届いて着てみたらなんか違うってことあると思うんだけど、それって結局ムダじゃん?行って見て触って買った方が早かったし、納得がいくし、絶対その方が気に入ったときに使うのよ。服もモノも、納得した上で買ったものは自分のワードローブの中に入るから、俺には合ってない。
確かに実際触れて、試着してみないと分からなかったりしますよね。
俺らはとくに、昔から雑誌読んで、問い合わせして、お店に買いに行く世代だったから。ファッション誌見て、これいいな。で、値段チェックして、バイト頑張って、お金貯めて、見に行って買うっていう世代だから、今も名残りじゃないけど、やっぱりモノは見に行ってから買うようにしてる。今の若い子達のネットワークの環境は当時の俺らと違うし、ポチって買うことも当たり前のことだけど、もし服が好きで拘りがあるのであれば、オールドスクールかもしれないけれど、アナログな手段を使った方が、服も靴も最終間違いないモノに出会えるんじゃないかなって思う。
実は、井上さんのインスタグラムを見たんですが、めっちゃ料理上手ですよね。昔から?
料理はね、もう完全に血筋!(笑)俺の父方のじいちゃんが戦後某ホテルの総料理長で、ガチガチの料理人。しかも、母方のじいちゃんも、やたら食に拘りを持っている人で、俺らが小さい頃から、いい食材を買ってきては食べさせるってのが当たり前で。母親も料理人気質だったから、食卓に一品料理をどんっていうよりは、色々な品数を出して食べて喜んでもらえるのが嬉しいっていう人で、俺はそれを見て育ってるから、俺もその感覚なわけ。
後々、一人暮らししたときに、すごい豪華だったんだなって思うんだけど。(笑)
小さい頃から料理を手伝ってたとか?
高校卒業までサッカー部にいたから、育ち盛りだから夕飯だけじゃ足りなくて。夜食的な感じで毎回プラスで一品自分でつくってたの。炒飯とか簡単な一品料理を作ってたんだけど、母親がちょいちょいこの貝柱を入れた方が美味しいとかはさんでくるから、それをどんどんアタマに叩き込んでいって。(笑)色々作ってると、それなりに腕は上がるし、血筋もあるだろうし、結構男の人は多いと思うんだけど、楽しくなってきてやり始めたら拘りたくなってくる。だから、今も土日は絶対俺が作るし、人に振る舞うのも好きかな。
ビジネスできそうですね。ケータリング事業とか。(笑)
一回あった。(笑)知り合いのプレスから言われて、葉山のお店で美味しいワインと、綺麗な器と、美味しいご飯っていうコンセプトのイベントで、キッチンがないから俺が作って持ってったことはあるね。まあでも仕事になっちゃったら嫌なんだろうな。飯に関しては趣味の延長でクオリティを高めたいっていうだけだから、ほんとホームパーティーくらいがちょうどいいかな。
改めて、今後の展望を聞かせてください。
俺は基本雑誌畑からスタートしていて、雑誌をやりたいなって思ってスタイリストになったから、やれるんだったらずっと雑誌の仕事をやり続けたい。雑誌の仕事をベースに他の仕事もしてるけど、今のこのやり方をキープし続けて、雑誌をやってるスタイリストとして自分の名前をもっと売っていきたいと思ってる。あとは、そういう場をもっと増やしていくことかな。俺に対する仕事の丁寧さとかしっかりしてるイメージに安心感を持ってオファーしてくれる人も多いから、自分の仕事を増やしつつ、事務所の後輩たちにもいい仕事をとってこれたらいいなって思う。育てるというよりかは、楽しい仕事を渡してあげたいって思いはある。
最後に井上さんにとっての35歳とは?
多分、35超えてから男の人は特に人によるけど、俺は俺らより上の世代の人たちの醸し出すエロさみたいなのあるじゃん?あれにすごい憧れるわけ。(笑)なんとも言えない雰囲気や存在感、余裕さというか。そこを突き詰めたいっていう想いがある(笑)でも、それは生き様というかあの人達が生きてきた上で出てるものだから、簡単に手に入るもんじゃないんだけど。色んな経験をしてきた上であれが出てるわけだから。だから、特に今の若い子達にはそういうところを目指してほしいって思いはあるかな。ちょっと上の世代の人たちの渋さやエロさを手に入れるために、若いうちから色々な経験をしてほしい。それが旅でもいいし、普段やること、音楽にハマる、アウトドアにいくだの、なんでもいいんだけど、浅く広くでもいいから、色んなことを経験して、色々な面をみていくってのは必要かなって思う。
普段と違うことを率先して取り入れていくべし!かな。(笑)
PROFILE
井上 裕介
Stylist
文化服装学院卒業後、アシスタント3年経て独立。スーツからカジュアルまで幅広いスタイリングで、メンズ雑誌を中心に広告、ブランドカタログ、webなど多方面で活動中。
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